ボンジュール!
さて、今回はフランス語の参考書をレビューしたいと思います。
今回レビューするのは、フランス語入門者向けのSB新書『フランス語をはじめたい! 一番わかりやすいフランス語入門』 (清岡智比古著、2023年刊)です。
一番わかりやすいフランス語入門というキャッチフレーズはよく見かけますが、いったいどれほどわかりやすくて、どのような特徴があるのでしょうか?
以下のレビュー記事では、この参考書の特徴をかんたんに紹介してから、個人的に長所と短所だと思った点を挙げていきます。
総評:本書の特徴
本書はゆる〜い感じで読める新書です。著者の清岡智比古先生はNHKの『まいにちフランス語』で講師を務めたこともあるベテラン講師(ちなみに僕は先生の「そうだ,中級の準備をしよう!〜池袋より愛をこめて」という講座が大好きでした)。じゃんぽ〜る西さんのイラストも見ものですが、数は思っていたほど多くありません。
「わかりやすさ」を謳っている通り、本書は難しい文法用語は最小限に抑え、七面倒クサイ厳密なルールや例外を潔く切り捨てて、フランス語の基礎的なルールをやさしくわかりやすく教えてくれます。
至るところにあらわれて読者の理解と記憶を助けてくれる著者のプチ雑学も◎。サン=テグジュペリの『星の王子さま』とフランス映画『最強のふたり』からのフランス語の引用も盛りだくさん。
全体としてとてもわかりやすく、気楽にフランス語をはじめてみるのにいい本だとおもいました。
本書の目次は以下の通りです。
序章 ボンジュール、フランス語~フランス語を始める前に
第1章 クロワッサン、グルメから、グラン・プリ、シルエットまで~音とつづりの関係
第2章 紳士淑女の手ほどき ~名詞・冠詞・人称代名詞
第3章 本当にフランス人は服を10着しか持たないのか~重要動詞
第4章 フランス人はボジョレーヌーヴォーがお好きでない?~形容詞
第5章 これであなたもフランス人♪~動詞の90%を占めるウーエール動詞
第6章 カフェ・オ・レの「オ」ってなに? ~前置詞と定冠詞の縮約
第7章 「いつ」「どこで」「どんな風に」ナンパするの?~3種類の疑問
第8章 フランスのおやつタイムは4時からはじまる ~天候と時刻の表現
など
長所
- ゆる〜い感じの語り口
著者の清岡智比古先生はNHKで講座を受け持ったこともある立派なベテラン講師なんですが、偉ぶったところも堅苦しいところもまったくありません。少々ポップすぎるくらい若い精神の持ち主です。本書の語り口のそういう「ゆるさ」は入門書の語り口として最適かもしれません。 - 文法用語は最小限
「一番わかりやすい入門書」を謳っているだけあって、小難しい文法用語の使用は最小限度にとどめられています。文法用語を使うときも「これはつまりこういう意味ね」というふうにわかりやすく言い換えてくれます。 - 理解を助ける雑学・うんちく・比較文化
いたるところで顔をだす清岡先生の雑学・うんちくは、ある場合には、フランス語のメカニズムと日本語のそれの類似をあぶりだし(petit enfantは「プティ・アンファン」ではなく「プティ・タンファン」/春雨は「はるあめ」ではなく「はるさめ」)、ある場合には、日本とフランスの文化的差異を際立たせ(「熟成に価値を見出すフランスと新鮮さに目がない日本」)、ある場合には、まったく関係ないマイケル・ジョーダンの言葉を引っ張ってきて読者を勇気づけます(「一番多く失敗した人間が一番遠くまで行く」)。こういう雑学は頭に残るので、ものを記憶するのが苦手な人には特に効果的。 - 文学作品『星の王子さま』と映画『最強のふたり』からの引用がもりだくさん
このフランス語入門書の核となっている引用元は、サン=テグジュペリの『星の王子さま』と2011年に大ヒットしたフランス映画『最強のふたり』です。この二つの傑作から、「リアル」で、「じわっと沁み」て、「フランス語の骨格が見えやすい表現」がふんだんに引用されます。
短所
- 著者の語り口が苦手な人もいるかも?
ぼく個人としては、著者の清岡先生の語り口は好きですが、読者の方の中にはこういうゆるい(悪く言えばテキトーな)語り口が気に入らない人もいるかもしれません。真面目な参考書・入門書をお探しの方はお避けになった方が無難かもしれないです。 - 引用作品が限定され過ぎている?
清岡先生の文化的・言語的知識は本書の至るところに顔を出しますが、残念ながらフランス語として引用される文章の引用元はほぼすべて『星の王子さま』と『最強のふたり』だけです。たしかにこの二作は傑作には違いないですが、この偏りはちょっとどうなんだろう…という気がしないでもありません。 - 『最強のふたり』のタイトルの解釈が間違っているのでは?
最後にいちばん気になった箇所について一言。本書で頻繁に引用されている映画『最強のふたり』のフランス語タイトル Intouchables について著者は、”Intouchables”とは「さわれない者同士」「出会うことのない人同士」という意味であり、映画はそんな2人(金持ちの白人と移民の黒人)が出会ってしまった物語であるというふうに解釈しています。これは僕の考えていたことと違ったのでネットで調べてみたんですけど、やはり、”intouchables”には、ポジティブな意味(「手がつけられない」「最強の」)と、ネガティブな意味(「(インドの)不可触賎民」)があり、映画のタイトルは、全身麻痺を負った身体障害者と前科のある黒人移民という社会の「除け者」が、タッグを組むことで最強になる(最強の友情を手にいれる)という意味をあらわしているようです。概して、フランス語のタイトルにはこういうふうに複数の意味が込められていることがザラにあるので厄介です。
こういう人にオススメ
以上のことを踏まえて本書をオススメするのは以下のような方々です。
- 堅気な文法書ではなく、ゆるい本から気楽にフランス語を始めたい人。
- フランス語を本格的にはじめてみようかどうか迷っている人。
- 雑学やうんちくが好きな人。
- 『星の王子さま』と『最強のふたり』が好きな人。
以上、フランス語入門書『フランス語をはじめたい! 一番わかりやすいフランス語入門』をかんたんにレビューしました。
批判めいたことも書きましたが(批判って書くのが簡単なんです)、フランス語の基礎的なルールの説明はとてもわかりやすくて面白いので、フランス語デビューしてみようかなと考えている人はぜひ一度手に取ってパラパラめくってみてください。おそらく止まらなくなってそのまま買ってしまうと思いますよ。
それでは、また。
À bientôt !
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